テロメアDNAは、数百塩基の突出領域と数戦塩基対の相補領域から形成されています。この突出領
域の形成する四重らせん構造を研究するために、NMR測定やX線結晶構造解析、さらには生化学的
・物理化学的解析が行われてきました。しかし、ほとんどの研究は、モデル配列として、数塩基か
ら20塩基程度の短鎖のオリゴマーを用いてきたため、その構造や安定性が、100塩基以上のテロメ
アDNAの構造を同じかどうかは明らかにされていませんでした。
そこで我々の研究グループでは、長鎖のテロメアDNAの構造とその熱力学的安定性を検討しました。
その結果、長鎖のテロメアDNAは、短鎖のテロメアDNAが形成する四重らせん構造ユニットを数珠
のように連結した構造であることが示されました。詳しくはこちら3。
また、テロメアやがん関連遺伝子上流に存在するグアニンに富んだDNA配列から転写された、グア
ニンに富んだnon-coding RNAが形成する構造やその熱力学的安定性についても検討をしています。
その結果、DNA四重らせん構造は、塩基配列のみならず、カチオン、pH、分子クラウディングな
ど細胞内環境因子に依存して、その構造や熱力学的安定性が大きく変化することが分かりました。
これとは対照的に、RNAの四重らせん構造は、塩基配列や上述の環境因子に依存せず、常に平行型
の四重らせん構造のみを形成することが示されました。また、RNA四重らせん構造は、同一条件中
のDNA四重らせん構造よりも常に安定であることもわかりました。
1.2.DNA及びRNA四重らせん構造の物性解析
テロメアDNAの構造は、テロメラーゼの機能を制御することから、細胞の老化やがん化に関与する
と考えられています。また、近年では、テロメアDNAから転写されたテロメアRNA配列が、
non-coding RNAの一種として、遺伝子発現の調節に関与していることも明らかにされつつあります。
これらのDNA・RNA鎖は、グアニンに富んだ配列であり、四重らせん構造を形成します。
これらはともに、四重らせん構造ではなく、二重らせん構造を形成する可能性があります。そこで、これらの配列をもつRNA鎖とDNA鎖の形成する構造を検討しました。その結果、DNA鎖は、周辺環境に依存して、二重らせん構造や四重らせん構造等の多様な構造を形成することが分かりました。一方、RNAは二重らせん構造のみを形成することが分かりました。以上のことから、RNA構造の単型性とDNA構造の多様性が、テロメア配列のみならず、がん遺伝子などをはじめとする様々なグアニンに富んだ配列で観測されることが示されました。
では、RNA構造は、なぜ単型的なのでしょうか。現在我々は、RNAの機能からその理由を説明できるのではないかと考えています。RNAはリボザイムをはじめとする様々な機能をもちます。この機能は、RNAが機能に必要な高次構造を形成して、ようやく発現されます。もし、細胞内で変化する化学的周辺環境に依存して、RNAの高次構造が変化すると、その機能を保持できなくなります。このように考えると、RNAは機能発現のために、周辺環境非依存的に単一で強固な構造を形成する必要があります。これは、今までに一般的に考えられてきた、RNAの高次構造に対するイメージと大きく異なっています。一方、二重らせん構造を形成すると考えられてきたDNAは、細胞内環境によってその構造を大きく変化させます。これを利用すれば、細胞内環境をセンスして、遺伝子発現などを制御できるのかもしれません。このような考え方の可能性を探るべく、現在、様々な研究を続けています。
Biomolecular Design Lab.
分子設計化学研究室
これらの結果は、DNAが細胞内でダイナミックに構造を変化させるのに対して、RNAは安定で単型
的な構造を形成する可能性を示唆するものと考えられます。
DNAとRNAの形成する構造を考える際に、まず注目される点は、総補鎖が存在するか否かです。
DNAには総補鎖が存在し、RNAには存在しません。そのため、DNAは二重らせん構造を形成し、
RNAは多様な高次構造を形成すると考えられています。細胞内における、グアニンに富んだ塩基配列
をもつ核酸鎖に関しても、相補鎖と形成する二重らせん構造と競合するDNAの四重らせん構造よりも、
相補鎖が存在しないmRNAの四重らせん構造のほうが、より形成できる可能性が高いと一般的に考
えられています。しかし、グアニンに富んだ配列の近傍に、シトシンに富んだ配列が存在すれば、
分子内で強固な二重らせん構造(ヘアピンループ構造)を形成すると考えられます。
そこで我々の研究グループでは、グアニンに富んだ配列が存在することが知られている、がん遺伝子のmRNA上
流の塩基配列を解析しました。その結果、この領域には、グアニンのみならず、シトシンが多く存在することが
示されました。さらに、シトシンに富んだ領域がグアニンに富んだ領域は直近に存在する場合と、シトシンとグ
アニンが混じりながら存在する場合がありました。